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横浜地方裁判所 昭和63年(行ウ)11号 判決 1990年1月31日

神奈川県藤沢市鵠沼松が岡四丁目二〇番八号

原告

株式会社大和田工務店

右代表者代表取締役

原田操

右訴訟代理人弁護士

小室恒

神奈川県藤沢市朝日町一丁目一一番地

被告

藤沢税務署長

柴田勲

右指定代理人

野崎守

鈴木實

篠崎哲夫

安藤明

原敏之

竹田準一

槇田俊裕

主文

被告が昭和六一年三月三一日付けでなした原告の昭和五九年二月分及び同年三月分の源泉徴収にかかる所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、給排水・衛生設備工事を営む非同族会社で青色申告の承認を得ているものであり、昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度(以下「「本件事業年度」という。)につき法定申告期限までに法人税の確定申告を行つた。

被告は、昭和六一年三月三一日付けで昭和五七年四月一日以降の青色申告の承認を取り消し(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)、かつ、本件事業年度の法人所得を一億四〇八二万七九二四円、法人税を五八〇四万六九〇〇円とする更正処分及び五七二万二〇〇〇円の過少申告加算税の賦課決定処分(以下これらの処分を併せて「本件更正処分等」という。)を行い、さらに、別紙第二「本件納税告知処分等の内訳」記載のとおりの納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件加算税賦課決定処分」といい、本件納税告知処分と併せて「本件処分」という。)を行つた。

2  原告の不服審査の経緯及び審査裁決の内定は、別紙第一「本件納税告知処分等の経緯」記載のとおりである。

3  本件処分は、次のとおり、事実を誤認してなされたものであるから違法である。

(一) 被告は、原告が昭和五九年三月六日株式会社大栄物産(以下「大栄物産」という。)に対して原告所有の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を一億四八八三万円で売却したと認定したうえ、原告が本件土地の譲渡益を法人所得に加算せずに確定申告したとして本件更正処分等を行つた。

そして、被告は、原告が本件土地の売買代金を取得したと認定されるにもかかわらず、大和田武が右代金を取得しているため、原告が取締役である大和田武に賞与として右代金相当額を支給したものと認定し、本件処分を行つた。

(二) しかし、原告及び大和田武は、本件土地が不動産登記簿上及び土地台帳上大和田武名義となつており、また、大和田武が、昭和三五年八月本件土地の購入代金二〇〇万円のうち一二〇万円を負担したばかりでなく、残金八〇万円も村木秋多から三〇万円、三浦幹から五〇万円をそれぞれ借入れて調達し、その利息も支払つており、さらに、大和田武が昭和三六年以降の固定資産税を負担し、かつ、本件土地第三者に駐車場として賃貸し、その賃貸料を同人の所得として確定申告してきたため、本件土地を同人所有と信じていた。

そこで、大和田武は、昭和五九年三月六日大栄物産に対し、本件土地を自己所有と信じて一億四八八三万円で売却し、大栄物産から昭和五九年二月に三〇〇〇万円、同年三月に一億一四四三万円を取得した。

(三) ところが、被告が昭和六一年三月三一日本件青色申告承認取消処分、本件更正処分等及び本件処分を行つたため、原告は、同年五月一四日被告に対し異議を申し立て、さらに、異議決定がなされないので昭和六二年二月二四日国税不服審判所長に対して審査請求をなしたが、昭和六三年二月二六日右審査請求が棄却された。

原告は、右審査請求が棄却されたため大和田武と話し合つて、本件土地が原告の所有でありその譲渡所得は原告に帰属するとしてなされた本件更正処分等に従うことにし、右処分について取消訴訟を提起しなかつた。

(四) しかし、原告は、本件土地が大和田武所有であると考えていたため、同人が本件土地を売却してその売買代金を取得することに異議を述べなかつたものであり、売買代金を大和田武に取締役の賞与として取得させる意思も行為もなく、原告が大和田武に右売買代金相当額を賞与として支給したとなされた本件処分は承服できなかつたので、その取消しを求めて本件訴訟は提起した。

(五) 原告は、大栄物産に対する本件土地の所有権移転の無効を主張せずに大和田武から本件土地の売買代金相当の一億四四四三万円を返還させることにした。

まず、原告は、昭和六三年五月三〇日までに大和田武との間において、<1>同人の負担した本件土地購入資金一二〇万円、<2>同人が本件土地購入資金として借用し返済した借入金一三〇万円(昭和五三年七月村木秋多に対する三〇万円返済分、昭和五九年四月三浦幹に対する礼金五〇万円を含めた一〇〇万円の返済分)<3>大和田武が支払つた右借入金の利息金一九七万二〇〇〇円(村木秋多に対する昭和三五年八月から昭和五三年七月まで月額三〇〇〇円の立替払分、三浦幹に対する昭和三五年八月から昭和五九年三月まで月額五〇〇〇円の立替分)、<4>大和田武が本件土地につき昭和三六年から昭和五九年までに支払つた固定資産税三六七万〇二六一円、<5>同人が昭和五九年二月二一日立替返済した原告の中小企業金融公庫に対する借入債務三〇一万五一七二円、<6>同人が同年三月二日本件土地売買契約書に貼付した印紙の代金、抹消登記手続費用一三万〇五五〇円、<7>同人が同月六日立替え返済した原告の藤沢信用金庫に対する借入債務二八二〇万円、<8>同人が同月九日立替返済した原告の横浜銀行に対する借入債務一八七八万九〇〇〇円、<9>同人が昭和六二年五月八日立替払いした原告の法人事業税一〇五二万四五九〇円、<10>同人が昭和六三年三月二五日立替払いした原告の法人事業税一〇八六万五七〇〇円、以上の合計七九六六万七二七三円を大和田武が原告に請求できるので、右債務と同人の原告に対する本件土地売却に伴う返還金債務とを対当額で相殺した。

次に、原告は、昭和六三年五月三一日大和田武と協議し、右相殺後の同人に対する返還金債権残額六四七六万二七二七円のうち二三六八万九八九〇円を同人に対する貸付金債権とし、また、同人から同年六月六日一六〇万円、同月二一日二〇〇〇万円、同年九月二六日一九四七万二八三七円の支払いを受けることで右残額六四七六万二七二七円を清算し、これによつて、本件土地売却に伴う同人の原告に対する返還金債務一億四四四三万円について全額清算を終了した。

(六) 以上のとおり、原告は、本件土地が大和田武所有と誤認したため、本件土地代金を同人に取得させたのであり、右誤認が判明した後、同人に右代金相当額を返還させているのであるから、右代金を同人に賞与として支給したわけではなく、本件処分は事実を誤認してなされたものであつて違法である。

よつて、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2(一)  同3の冒頭は争う。

(二)  同3(一)の事実は認める。

(三)  同3(二)の事実中、本件土地が不動産登記簿上及び土地台帳上において大和田武名義であつたことは認め、大和田武が大栄物産に本件土地を売却したことは否認し、その余の事実は知らない。

(四)  同3(三)の事実中、被告が昭和六一年三月三一日本件青色申告承認取消処分、本件更正処分等及び本件処分を行つたこと、原告が昭和六一年五月一四日異議申し立て、異議決定のなされない昭和六二年二月二四日国税不服審判所長に対して審査請求を行い、昭和六三年二月二六日に審査請求を棄却する旨の審査裁決を受けたこと、原告が本件青色申告承認取消処分及び本件更正処分等について取消訴訟を提起しなかつたことは認め、その余は知らない。

(五)  同3(四)の事実中、原告が大和田武に本件土地代金を賞与として支給する意思のないことは否認し、その余は知らない。

(六)  同3(五)の事実は知らない。

(七)  同3(六)は争う。

三  被告の主張

1  事実経過

(一) 原告は、昭和五九年三月六日大栄物産に対し、原告所有の本件土地を一億四八八三万円で売却したにもかかわらず、本件事業年度の法人税の確定申告において本件土地の譲渡益を益金の額に計上しなかつた。

被告は、本件事業年度の申告所得金額二一〇万六六六五円に本件土地の譲渡収益一億四八八三万円を加算し、これから本件土地の帳簿価格五七〇万八七四一円及び仲介手数料四四〇万円を譲渡原価として控除し、原告の本件事業年度の所得金額を一億四〇八二万七九二四円とする本件更正処分等を行つた。

(二) 原告の取締役大和田武は、大栄物産から本件土地の譲渡代金として昭和五九年二月三日に一〇〇〇万円、同月一八日に二〇〇〇万円、同年三月六日に一億一八八三万円をそれぞれ受領し、仲介手数料四四〇万円を株式会社ナカムラ宅建に支払つた。

大和田武は、原告に帰属させるべき本件土地の譲渡収益から仲介手数料を控除した一億四四四三万円を自己に帰属させたうえ、これをもつて同人名義の中期国債フアンド、ユニツト投資信託、転換社債フアンドの購入費、定期預金の設定資金、原告に対する貸付金、個人住宅ローンの返済資金にあてていた。

2  本件納税告知処分の適法性

被告は、大和田武が本件土地の譲渡収益一億四八八三万円から仲介手数料四四〇万円を控除した残額一億四四四三万円を自己に帰属させていたので、右一億四四四三万円は原告から大和田武に取締役であることに基づいて支給された臨時的な給与、すなわち、賞与として支給されたものであるとして本件納税告知処分を行つた。

したがつて、本件納税告知処分は適法である。

3  本件加算税賦課決定処分の適法性

原告は、大和田武に対して一億四四四三万円の賞与を支給しながら、本件納税告知処分にかかる源泉所得税を法定納期限までに納付しなかつたから、被告は、国税通則法六七条一項により前記源泉所得税(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てたもの)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を原告に課する旨の本件加算税賦課決定処分を行つた。

したがつて、本件加算税賦課決定処分は適法である。

4  原告の主張に対する反論

(一) 原告は、本件土地が大和田武所有と考えていたため、同人の本件土地売買代金取得を容認していた旨主張する。

しかし、原告は、昭和三五年八月二三日松本定吉から同人所有の本件土地を買い受け、昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日(以下「昭和三六年三月期」といい、以下同様に略す。)及び昭和四〇年三月期から昭和五一年三月期までの各法人税確定申告書添付の勘定科目内訳明細書、営業報告書、決算報告書及び勘定科目別内訳明細書(以下これらの書類を「申告書添付書類」という。)において、本件土地を原告所有資産として記載し、さらに、昭和三六年三月期から昭和五八年三月期まで継続して原告の貸借対照表に本件土地を資産として計上し、本件土地が原告所有であることを前提に経理処理してきたから、原告が本件土地を大和田武所有と誤認する余地はない。

また、大和田武は、昭和三〇年から昭和五九年五月末日まで原告の代表取締役として経営全般を取り仕切つていた者であり、かつ、法人税確定申告書に署名捺印して被告に提出していたから、本件土地が原告所有であることを十分に承知していた。

さらに、大和田武が本件土地を自己所有と誤認していたとしても、本件土地が客観的に原告所有である以上、大和田武の内心にかかわらず、本件土地の売買代金は経済的に原告に帰属すべきものであるところ、同人が右売買代金を受領して個人的蓄財にあてており、原告もこれを容認しているのであるから、原告から同人に経済的利益が供与されたというべきであつて、大和田武の右誤認は被告の右認定に影響を及ぼさない。

したがつて、原告の右主張は失当である。

(二) 原告は、大和田武から錯誤を理由に一億四千四百四三万円の返還を受けたので賞与の支給はなかつた旨主張する。

しかし、仮に原告が大和田武から何らかの金員の支払いを受けたとしても、本件納税告知処分に影響を及ぼすものではない。

すなわち、課税処分取消の訴えは、当該処分が処分時点において実体上及び手続上の要件に適合していたか否かを審理の対照とするものであつて、処分後に生じた事由を当該処分の違法事由として主張することは許されないところ、被告が本件納税告知処分を行つた昭和六一年三月三一日の時点において、原告主張のような売買代金返還の事実はなく、かえつて、大和田武は、本件土地売却代金を同人名義の中期国債フアンド、ユニツト投資信託、転換社債フアンドの購入資金、定期預金の設定資金、原告に対する貸付金等にあてて運用していたのであり、しかも、原告は、同人が右金員を受領することになんら異議を述べていないのであるから、右金員は原告から同人に賞与として支給されたものというほかはない。

そして、大和田武が原告に本件土地の売却代金を返還したとしても、その事実は本件処分後に発生した新たな事実に過ぎず、右事実に起因して遡って本件納税告知処分の基礎となつた事実関係が覆滅するものではないから、本件納税告知処分の効力に影響しない。

したがつて、原告の右主張は失当である。

(三) 原告は、本件土地が大和田武所有と誤認したから、同人が本件土地の売却代金を受領するのを容認したのであり、賞与として支給する意思も行為もなかつた旨主張する。

しかし、所得税法一八三条一項にいう給与等の支払いとは、それが給与等に該当するものである以上、支払者がいかなる趣旨でこれを支払つたかというような支払者の主管的意思とはかかわりなく決定される事柄であつて、賞与か否かは専ら経済的利益付与の客観的性格によつて判断すれば足り、賞与として支給する意思は格別必要でなく、仮に原告が大和田武に賞与を支給する意思がなかつたとしても、本件処分を違法とはできない。

したがって、原告の主張は失当である。

四  被告の主張に対する認否

1(一)  被告の主張1(一)の事実中、原告が大栄物産に本件土地を売却したことは否認し、その余の事実は認める。

(二)  同1(二)の事実中、本件土地の譲渡益が原告に帰属することは争い、大和田武が本件土地の売却代金を個人住宅のローン返済資金に当てていたことは否認し、その余の事実は認める。

2  被告の主張2は争う。

3  同3の事実中、原告が大和田武に対する賞与の支給にかかる所得税の源泉徴収をせず法定期限内に右所得税を納付しなかつたことは認め、その余は争う。

4(一)  同4(一)の事実中、原告が昭和三五年八月二三日松本定吉から本件土地を買い受けたこと、原告の申告書添付書類には本件土地を原告所有資産として記載していること、大和田武が昭和三〇年から昭和五九年五月末日まで原告の代表取締役てあつたこと、同人が本件土地の売買代金を個人の蓄財にあてていたことは認め、その余は争う。

なお、大和田武は、原告の金銭出納以外の事項を会計担当者と税理士に任せており、本件土地が原告の資産として計上されていることを知らなかつた。

(二)  同4(二)の事実中、大和田武が本件土地の売買代金を被告主張の資金にあてていたこと、原告が大和田武の本件土地売買代金受領に異議を述べなかつたことは認め、その余は争う。

(三)  同4(三)は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2の各事実(本件処分の存在、不服審査の経緯)は当事者間に争いがない。

二  本件処分の違法性について判断する。

1  争いのない事実

(一)  原告が昭和三五年八月二三日松本定吉から本件土地を買い受け、昭和三六年三月期、昭和四〇年三月期から昭和五一年三月期までの申告書添付書類に本件土地を原告所有資産として記載し、昭和三六年三月期から昭和五八年三月期までの各事業年度の貸借対照表に本件土地を原告所有資産として経理処理してきたこと(被告の主張4(一))

(二)  本件土地が不動産登記簿上及び土地台帳上において大和田武名義であつたこと(請求原因3(二))

(三)  大和田武が昭和三〇年から昭和五九年五月末まで原告の代表取締役てあつたこと(被告の主張4(一))

(四)  大和田武が大栄物産から本件土地の売却代金として昭和五九年二月三日に一〇〇〇万円、同月一八日二〇〇〇万円、同年三月六日に一億一八八三万円を受領し、株式会社ナカムラ宅建に仲介手数料四四〇万円を支払い、残金一億四四四三万円をもつて、同人名義の中期国債フアンド、ユニツト投資信託、転換社債フアンドの購入資金、定期預金の設定資金、原告に対する貸付金にあてていたこと(被告の主張1(二))

(五)  原告が本件事業年度の法人税の確定申告において本件土地の譲渡益を益金の額に計上しなかつたこと(被告の主張1(一))

(六)  原告が青色申告の承認を得ているものであり、被告が昭和六一年三月三一日本件青色申告承認取消処分、本件更正処分等及び本件処分を行つたこと(請求原因1)

(七)  原告が昭和六一年五月一四日本件青色申告承認取消処分、本件更正処分等及び本件処分について異議の申し立てを行い、昭和六二年二月二四日国税不服審判所長に審査請求を行い、昭和六三年二月二六日審査請求を棄却する旨の裁決を受けたが、本件更正処分等について取消訴訟を提起しなかつたこと。(請求原因2、同3(三))

2  右争いのない事実に加えて、成立に争いのない甲第一号証、第四、五号証の各一、二、第六号証、第一〇号証ないし三、第一一ないし第一五号証の各一、二、第一六ないし第二五号証、第二六、二七号証の各一、二、第二九、三〇号証、証人大和田進の証言により真正に成立したと認められる甲第二号証、第三号証の一ないし四、第七、八号証の各一、二、第九号証、第二八号証、証人大和田進の証言によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和三〇年一一月八日上下水道工事、衛生設備工事等を行う目的で設立された株式会社であり(甲第一六号証)、青色申告の承認を得ているものである。

大和田武は、昭和一五年ころから大和田工務店の名称で管工事を営み、昭和三〇年一一月八日原告を設立し、代表取締役として原告の運営を取り仕切つてきた者であるが、原告の発行済株式数二万株のうち三〇〇〇株を所有しているに過ぎず、また、同人の妻も約一六〇〇株しか所有していない。

(二)  原告は、昭和三五年八月二三日松本定吉から同人所有の本件土地を二〇〇万円で買い受け、同日大和田武名義をもつて所有権移転登記手続を了した(甲第四、五号証の各一、二)。

大和田武は、本件土地購入資金二〇〇万円のうち一二〇万円を自己資金から捻出し、残金八〇万円について友人である村木秋多から三〇万円、三浦幹から五〇万円を借り受けて調達した。

本件土地は、藤沢市藤沢字善行四一七七番八の土地(山林三九六平方メートル)であつたが、昭和四二年一〇月二五日土地区画整理法に基づく換地処分により藤沢市善行一丁目二五番一の土地(雑種地二四〇平方メートル)となり、昭和四三年六月二一日分筆によつて本件土地となつた(甲第四号証の一)。

大和田武は、本件土地を駐車場及び広告用看板の設置場所として賃貸し、賃貸料を取得していた。

(三)  大和田武は、昭和五五年五月二四日ころ脳梗塞により倒れたが、不動産業者が昭和五七年ころから本件土地の売却を求めて同人方を訪れるようになり、長男である大和田進及び妻と相談のうえ、本件土地を売却することにした。

大和田武は、昭和五九年二月三日大栄物産に対して本件土地を一億四八八三万円で売却することを決め、同日同社から一〇〇〇万円を、同月一八日二〇〇〇万円をそれぞれ受領し、同日本件土地を一億四八八三万円で売却する旨の売買契約を締結し、その旨の土地売買契約書(甲第六号証)を作成した。

大和田武は、昭和五九年三月六日大栄物産から売買残代金一億一八八三万円を受領するのと引き換えに本件土地につき同社に所有権移転登記手続きを了し、また、本件土地の売買契約を仲介した株式会社ナカムラ宅建に仲介手数料四四〇万円を支払つた。

大和田武は、病状がすぐれないことから昭和五九年五月三〇日原告の代表取締役を辞任し(甲第二五号証)、取締役会長となり、原田操が原告の代表取締役に就任した。

(四)  被告は、原告が昭和三六年三月期及び昭和四〇年三月期から昭和五一年三月期までの各申告書添付書類に本件土地を原告所有資産として記載し、また、昭和三六年三月期から昭和五八年三月期までの各貸借対照表に本件土地を資産として計上してきたため、本件土地が原告所有であると認定した。

そして、被告は、本件土地の所有者である原告が大栄物産に本件土地を売却したと認定し、右売買代金が原告に帰属するにもかかわらず、原告が本件事業年度の法人税の確定申告において右売却益を計上していなかつたので、昭和六一年三月三一日本件更正処分等を行い、さらに、原告の代表取締役である大和田武が売買代金を取得して個人の蓄財に当てていたことから、原告が同人に右売買代金を賞与として支給したものとして本件処分を行つた。

原告は、昭和六一年五月一四日被告の右各処分について異議を申し立て、また、異議決定のなされる以前である昭和六二年二月二四日国税不服審判所長に対して審査請求を行い、右審査請求において、本件土地が原告所有ではなく大和田武所有であり、本件土地の売買代金も原告ではなく大和田武に帰属すると主張して、本件更正処分等及び本件処分の取消しを求めた(甲第一号証)。

原告は、昭和六三年二月二六日右審査請求を棄却する旨の審査裁決(甲第一号証)を受けたので、大和田武及び同人の長男大和田進らと協議した結果、原告が本件土地を所有していた旨及び本件土地の譲渡所得が原告に帰属する旨の国税不服審判所の判断に従わざるを得ないとして、本件更正処分等の取消訴訟を提起しないことにしたが、本件土地の売買代金相当額を大和田武に賞与として支給した旨の判断には承服できないとして、本件訴えを提起して本件処分の取消しを求めることにした。

そのうえで、原告は、大和田武及び大和田進と協議し、大和田武が大栄物産から受領していた本件土地の売買代金相当額の返還を求めたところ、同人もこれを承諾した。

(五)  原告は、大和田武から本件土地売買代金に相当する一億四八八三万円の返還を受けることにしたが、同人が右売買契約締結の際、株式会社ナカムラ宅建に仲介手数料四四〇万円を支払つているので、これを控除した一億四四三万円を返還させることにし、総勘定元帳(短期貸付金)の昭和六三年五月三〇日欄の借方に「前期損益修正益、大和田武税務修正一億四四四三万円」と記載した(甲第三号証の一)。

大和田武は、<1>本件土地の購入資金二〇〇万円及び右購入資金のうち八〇万円に対する借入利息、<2>本件土地の固定資産税三六七万〇二六一円、<2>本件土地の売買契約書に貼付した印紙一〇万円(甲第六号証)、<3>本件土地に設定されていた抵当権登記の抹消登記費用等三万〇五五〇円(甲第七号証の一、二)、<4>原告の中小企業金融公庫に対する借入債務三〇一万五一七二円(甲第一二号証の一)、<5>原告の藤沢信用金庫に対する借入債務二八二〇万円、<6>原告の横浜銀行に対する借入債務一八七八万九〇〇〇円(甲第一一号証の一)、<7>原告の事業税及び法人県民税二一三九万〇二九〇円(甲第一〇号証の一ないし三、甲第一三号証の一、二)の合計七九六六万七二七三円を原告に代わつて支払つていたので、昭和六三年五月三〇日原告との間において、右立替払いに基づく原告に対する求償債権と大和田武の原告に対する前記返還金債務とを対当額で相殺処理することを合意した。そして、原告は、総勘定元帳(短期貸付金)の昭和六三年五月三〇日欄の貸方に「前期損益修正損、大和田武税務修正七九六六万七二七三円」と記載した(甲第三号証の一)。

被告が本件売買代金相当額を大和田武に対する賞与として認定したため、これに伴つて市民税二三六八万九八九〇円が同人に課された。大和田武は、原告から本件土地売買代金を賞与として受領したことを否認していたが、原告が藤沢市からの発注工事を請け負つているため、原告と藤沢市役所との関係から右市民税の支払いを行つた。そこで、大和田武は、原告に右市民税に相当する金額を返還できないため、昭和六三年五月三一日原告との間において、右市民税分の返還金債務を原告からの借入金とすることを合意し、同人が原告から右金額を借用した旨記載した借用証書(甲第二号証)を原告から差し入れた。原告は、これに伴つて総勘定元帳(長期貸付金)の昭和六三年五月三一日欄の借方に「短期貸付金、大和田武振替二三六八万九八九〇円」と記載した(甲第三号証の四)。

大和田武は原告に対し、昭和六三年六月六日一六〇万円、同月二一日二〇〇〇万円(甲第一四号証の一)、同年九月二六日一九四七万二七三七円(甲第一五号証の一)を支払つた。原告は、これに伴つて総勘定元帳(短期貸付金)の同年六月六日欄の貸方に「藤信普通、大和田武一六〇万円」、同月二一日欄の貸方に「藤信普通、大和田武二〇〇〇万円」、同年九月二六日欄の貸方に「藤信普通、大和田武一九四七万二八三七円」と記載した。

原告及び大和田武は、以上の相殺、貸金処理及び返済により、同人の原告に対する一億四四四三万円の支払いを終えたことにした。

以上のとおりであつて、これに反する証拠はない。

3  右認定事実を前提にして、本件処分の違法性について判断する。

被告は、原告が昭和五九年三月六日大栄物産に対して本件土地を一億四八八三万円で売却し、その売買代金を大和田武に取得させた旨主張するので、右主張について考察する。

(一)  本件土地は、原告が昭和三五年八月二三日取得し、昭和三六年三月期の事業年度から本件土地を資産として経理処理してきた物件であるにもかかわらず、原告の当時の代表取締役大和田武が本件土地の売買代金を取得して個人的な蓄財資金にあてていること及び原告が本件土地の売買代金が原告に帰属することを前提とした本件更正処分等を争わずに確定させていることからすると、原告が大栄物産に本件土地を売却し、その売買代金を大和田武に供与していたかのようである。

しかし、まず原告が本件更正処分等を争わずに確定させた点については、原告において本件土地の売買代金が原告に帰属しない旨主張して異議申立て及び審査請求を行つたうえで審査裁決の判断に服したというのに過ぎないから、右処分等の確定の事実をもつて、原告が大栄物産に対し本件土地を売却したとは推認できない。

また、大栄物産との間の本件土地の売買契約は、大和田武個人が同人所有の本件土地を売却することを内容とするものであつて、同人が原告の代表者として締結したものではなく、本件土地が原告が所有権を取得した昭和三五年八月二三日から不動産登記簿及び土地台帳上において大和田武名義とされ、かつ、同人が本件土地の購入資金を調達したうえ、本件土地の固定資産税を負担し、賃貸料を取得しているほか、本件土地の売却は同人が妻及び長男と相談して決定し、原告の取締役会にはかるなどした形跡が見当らないことや原告が本件青色申告承認取消処分、本件更正処分等及び本件処分の審査請求において一貫して本件土地が大和田武所有である旨主張していたことからすると、原告及び大和田武は、本件土地を大和田武所有と誤認していたため、同人が本件土地を自己所有物件として売却してしまつたと推認するを相当とする。

(二)  大和田武は、昭和三〇年から昭和五九年五月三〇日まで原告の代表取締役であつた者であるところ、同人が脳梗塞で倒れて原告の経営に従事し難くなつた以後において、本件土地が売却され、同人が右売買代金を取得しており、しかも、審査請求が棄却された後になつて初めて本件土地の売買代金相当額が大和田武から原告に返還等されていることからすると、原告が大和田武に賞与を支給するに際して法人税を免れる意図から、本件土地を大和田武所有と仮装して売却し、その売却代金を同人に支給したと考えられる余地が全くないわけではない。

しかし、大和田武は原告の発行済株式総数二万株のうち三〇〇〇株しか所有しておらず、同人の妻も約一六〇〇株しか所有していないところ、前掲甲第二七号証の一、二、第二八号証によれば、原告は、昭和五一年三月三一日時点において、本件土地以外に小田急鵠沼海岸裏材料置場及び車庫六七・五坪、辻堂作橋材料置場六一坪、鵠沼松ケ岡四丁目マイホーム六一・九坪の各土地しか所有しておらず、昭和五九年三月三一日時点においても、帳簿上は本件土地を含めて六二二三万四六二六円の資産しかないにもかかわらず、短期借入金が四〇〇〇万円、長期借入金が四九一八万九四九七円であることが認められるのであつて、大和田武が長年にわたつて原告に貢献してきたにしても、原告が同人に一億四八八三万円もの本件土地売買代金を支給するとは考え難い。

しかも、本件土地は、右認定のとおり、原告の重要な資産であるところ、原告の取締役会等において本件土地の売却及び大和田武に対する賞与の支給に関して話し合われたと認める証拠はなく、かつ、大和田武あるいは原告の役員等が原告のために大栄物産との間で本件土地の売却代金、引渡時期、売却先等について交渉し、決定したと認めるに足りる証拠もないのであるから、これらの諸点に徴すると原告が本件土地を大和田武所有と仮装して大栄物産に売却したとは認め難い。

(三)  以上のとおり、本件土地は、大和田武が自己所有物件と誤信して大栄物産に売却したものであつて、原告が大栄物産に本件土地を売却したと認めることはできない。

したがつて、原告が大栄物産から本件土地の売買代金を取得する法的根拠はなく、原告が大和田武に右売買代金を支給する余地もないから、原告が本件土地を売却し、大和田武にその売買代金を支給した旨の被告の主張は理由がなく、その他、原告が同人に経済的利益を供与したと認める証拠もないから、本件処分は違法である。

三  よつて、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉昭 裁判官 宮岡章 裁判官 西田育代司)

別紙第一

本件納税告知処分等の経緯

<省略>

別紙第二

本件納税告知処分等の内訳

<省略>

(別紙)

物件目録

一 神奈川県藤沢市善行一丁目二五番一

雑種地 一二〇平方メートル

二 神奈川県藤沢市善行一丁目二五番一七

雑種地 一二〇平方メートル

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